大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

宇都宮地方裁判所栃木支部 平成11年(ワ)63号 判決

主文

一  被告は、原告に対し、原告から金八〇〇万円の支払いを受けるのと引き換えに、別紙物件目録記載の土地について、宇都宮地方法務局栃木支局昭和五二年七月一九日受付第八五二四号の同年同月一九日売買(条件農地法第五条の許可)を原因とし権利者を被告とする条件付所有権移転仮登記の抹消登記手続きをせよ。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の土地について、宇都宮地方法務局栃木支局昭和五二年七月一九日受付第八五二四号の同年同月一九日売買(条件農地法第五条の許可)を原因とし権利者を被告とする条件付所有権移転仮登記の抹消登記手続きをせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

第二  請求の原因

一  別紙物件目録記載の土地は、原告の所有である。

二  別紙物件目録記載の土地については、字都宮地方法務局栃木支局昭和五二年七月一九日受付第八五二四号の同年同月一九日売買(条件農地法第五条の許可)を原因とし権利者を被告とする条件付所有権移転仮登記がなされている。

なお、原告は、その後現在まで右土地についての固定資産税を納めてきた。

三  仮に右売買契約が存したとしても、被告には農業者の資格がないところから、農地法第五条の許可を得られる可能性はなく、また右土地は農業振興区域内に存するところ、その指定が解除される可能性もないから、前記法定条件(停止条件)の不成就が確定し、右売買契約は失効した。

四  また、原告の前記農地法五条許可申請手続協力義務は、売買契約の日である昭和五二年七月一九日から一〇年を経過した昭和六二年七月一九日をもって時効消滅した。

五  よって、原告は、所有権に基き、被告に対し、右仮登記の抹消登記手続きを求める。

第三  被告の主張

一  被告は、昭和五二年七月一七日、原告から、別紙物件目録記載の土地を売買代金八〇〇万円で買い受けた。

二  被告は、原告に対し、右売買代金として、昭和五二年七月一七日に金二〇〇万円を、同年七月二三日に残金六〇〇万円を支払った。

三  仮に、原告の被告に対する農地法第五条の許可申請手続協力義務の消滅時効期間が経過しているとしても、原告は、被告から右土地を賃料年五万円にて賃借し(最後の更新は平成七年一一月六日)、平成一〇年一二月まで約定賃料を支払ってきた。

原告は、右賃貸借契約締結及び賃料支払いの都度、被告に対し、右土地についての所有権移転登記手続義務及び右許可申請手続協力義務の存することを承認し、その都度消滅時効が中断し、あるいはそれにより時効の利益を放棄し、あるいは権利を濫用して消滅時効の主張をしていることになる。

四  仮に、消滅時効が完成しているとしても、被告は、右売買代金を完済した昭和五二年七月二三日から、右土地を自己の所有物として、原告にそれを管理させあるいは賃貸し占有してきて、それから二〇年間を経過した平成九年七月二二日の経過により完成した取得時効により、昭和五二年七月二三日に遡って右土地の所有権を時効取得した。 五 仮に、以上の主張が通らないとしても、原状回復義務としての被告の仮登記抹消登記手続義務と原告の代金返還義務とは同時履行の関係にある。

第四  当裁判所の判断

一  別紙物件目録記載の土地が原告の所有であったことは当事者間に争いがない。

二  甲第一号証、乙第一号証及び乙第二号証の一、二によれば、被告が、昭和五二年七月一七日、原告から別紙物件目録記載の土地を売買代金八〇〇万円で買い受け、原告に対し、右売買代金として、昭和五二年七月一七日に金二〇〇万円を、同年七月二三日に残金六〇〇万円を支払い、宇都宮地方法務局栃木支局昭和五二年七月一九日受付第八五二四号をもって同年同月一九日売買(条件農地法第五条の許可)を原因とし権利者を被告とする条件付所有権移転仮登記がなされたことが認められる。

三  しかしながら、甲第一号証及び乙第一号証によれば、右売買契約は、農地法第五条の許可あることを停止条件とするものであり、売主である原告において昭和五三年度末までに農地転用許可申請手続きをすることが義務付けられていたことが認められる。

そして、右売買契約の日から一〇年以上を経過するも、右許可がなされた形跡がなく、また許可を得られる可能性も窺われない。

四  ところで、乙第三号、第四号証の各一、二、乙第五号証の一ないし三及び被告本人尋問の結果によれば、原告が、被告から右土地を賃料年五万円にて賃借し(最後の更新は平成七年一一月六日)、平成一〇年一二月まで約定賃料を支払ってきたことが認められるが、原告が、右賃貸借契約締結及び賃料支払いの都度、被告に対し、右土地についての所有権移転登記手続義務及び右許可申請手続協力義務の存することを承認し、その都度消滅時効が中断し、あるいはそれにより時効の利益を放棄し、あるいは権利を濫用して消滅時効の主張をしていることを認めるべき十分な証拠はない。

五  そうすると、右売買契約は、法定条件(停止条件)が不成就に確定し、また前記許可申請手続協力義務が時効により消滅したことになる。

六  なお、甲第一号証及び乙第一号証によれば、被告は、右売買契約が法定条件にかかるものであることを知っていたものというべきであることに鑑みると、被告が前記売買代金を完済したことにより自主占有を開始したものとは認め難い。

七  以上によると、前記売買契約は失効し、被告は原告に対し原状回復義務として前記仮登記の抹消登記手続をすべき義務があることになるところ、それは、原状回復義務としての原告の被告に対する前記代金返還義務と同時履行の関係にあるものというべきである。

(口頭弁論終結日 平成一二年一月一九日)

(別紙)

物件目録

所在 下都賀郡都賀町大字舛〓字庚〓

地番 五〇九番一

地目 畑

地積 七八四平方メートル

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例